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葛飾北斎の浮世絵本・版本はいくらで売れる?初摺と後摺の違い
蔵から出てきた薄い和綴じの本をめくると、墨一色で描かれた人物や波の絵が並んでいた。表紙には見慣れない文字。もしそこに北斎の名があるなら、それは書籍であると同時に浮世絵でもある品です。葛飾北斎は錦絵で広く知られていますが、生涯を通じて数多くの版本、つまり木版で刷られた本も手がけました。この記事では、北斎の版本がなぜ古書市場で特別な扱いを受けるのか、同じ図柄でも評価が分かれる「初摺と後摺」とは何か、そして明治以降に作られた復刻版とどう区別されるのかを解説します。古い本の束としてまとめて処分してしまう前に、目を通しておいてください。
北斎の版本が特別な理由
まず、錦絵と版本の違いから整理しておきましょう。
一枚絵ではなく本という形
北斎といえば「富嶽三十六景」に代表される錦絵が有名です。これは一枚の紙に多色で摺られた作品で、額に入れて飾られることが多いでしょう。一方の版本は、和紙に木版で摺った紙を綴じて本の形にしたものです。多くは墨一色、あるいは限られた色数で構成されます。見た目は地味ですが、中身は紛れもなく北斎の絵であり、美術品として扱われる対象になります。書籍の棚に紛れていても、それは古本ではなく浮世絵の一形態だと考えてください。
この違いは、どこへ相談するかにそのまま影響します。書籍として古本屋に持ち込めば、古い和綴じ本という括りで扱われるかもしれません。しかし浮世絵として見る目を持つ業者であれば、絵師と摺りの状態から判断します。同じ品でも、見る人によって読み取れる情報量が違うということです。
絵手本という性格
北斎の版本には、絵を学ぶ人のための手本として作られたものが少なくありません。人物の姿勢、動植物の形、風景の構図。こうしたものを大量に描き集めた絵手本が、当時の絵師や職人に広く用いられました。つまり実用書として流通していたわけです。実用書であるがゆえによく使われ、傷み、散逸していきました。良好な状態で揃って残っているものが少ないのは、この性格によるところが大きいといえます。
絵手本という性格は、内容の面でも特徴を生みました。日常の人々の仕草、動物や植物、建物や道具、想像上の生き物まで、あらゆるものが描き込まれています。当時の暮らしを知る資料としても読めるため、美術としての関心と歴史資料としての関心の両方が向けられる分野なのです。
世界的な需要がある
北斎の作品は、日本国内にとどまらず海外でも高く評価されてきました。十九世紀後半のヨーロッパで日本美術への関心が高まった際、北斎の絵は大きな役割を果たしたとされます。その流れは現在も続いており、北斎に関する品は国際的な需要を持つ分野です。国内だけを見た感覚で価値を判断すると、実勢と食い違うことがあります。この点も、専門の業者に見てもらう理由のひとつになるでしょう。
海外に販路を持つ業者かどうかで、提示される評価が変わることもあります。国内では買い手が限られる品でも、海外に需要があれば話は違ってきます。相談先を選ぶ際は、浮世絵の取り扱い実績とあわせて、どこへ流していく店なのかも見ておくとよいでしょう。
状態が良いものが残りにくい
和紙に摺られた本は、湿気、虫、光のいずれにも弱い性質を持ちます。蔵や押し入れで百数十年を過ごせば、シミや虫食い、表紙の欠落が生じているのが普通です。したがって、傷んでいることを理由に価値がないと判断しないでください。程度の問題として扱われます。逆に、あまりにきれいすぎる場合は後年の復刻を疑うという見方もあり、状態の良し悪しだけでは判断がつかない分野なのです。
虫食いについても同様です。和本には紙魚と呼ばれる虫による食害がよく見られますが、それだけで価値が失われるとは限りません。図柄の主要部分が残っているか、綴じが保たれているか、頁が揃っているか。査定士はそうした点を総合して判断します。虫食いがあるからと処分を決めないでください。
初摺と後摺という考え方
北斎の版本を語るうえで欠かせないのが、いつ摺られたかという視点です。
| 種別 | 線と色の状態 | 市場での扱い |
|---|---|---|
| 初摺 | 線が細く鋭い。細部まで残る | 一般に評価が高い |
| 後摺 | 線が太く鈍る。色数が減ることも | 作品によっては後摺しか現存しない |
| 復刻版 | 紙質・綴じ方が新しい | 江戸期の摺りとは別の水準 |
版木は摺るたびに摩耗する
木版印刷では、彫った版木にインクを乗せて紙に摺ります。この作業を繰り返すうちに、版木の細い線は少しずつ摩滅していきます。したがって、早い時期に摺られたものほど線が鋭く、細部が明瞭に残ることになるわけです。同じ版木から生まれた同じ図柄であっても、摺られた時期によって見え方が変わる。これが初摺と後摺という区別の根拠になっています。
加えて、摺りの作業自体にも人の手が入ります。紙に版木を当て、馬楝と呼ばれる道具でこすって絵を移す。この力加減や、紙に含ませる水分の量によっても仕上がりは変わります。同じ版木、同じ時期のものであっても、一枚ごとにわずかな差が生じる。手仕事である以上、避けられないことです。
初摺・後摺で何が違うか
初摺は、版木が新しいうちに摺られたものを指します。線が細く、髪の生え際や着物の文様といった繊細な部分まで表現が残っているのが特徴です。後摺になると線は太く鈍くなり、細部が潰れてきます。色を使ったものでは、摺りの手間を省いて色数が減らされることもありました。市場では一般に初摺のほうが高く評価されますが、後摺に価値がないわけではありません。作品によっては後摺しか現存しないものもあり、そこは個別の判断になります。
また、江戸期のあいだに何度も摺られ続けた人気作については、初摺と後摺のあいだにいくつもの段階が存在します。きれいに二分できるものではなく、連続的な幅のなかのどこに位置するかという話になるわけです。そのため「初摺かどうか」を白黒つけようとするより、どの段階のものかを専門家に読んでもらう、と考えるほうが実態に近くなります。
所有者が見分けるのは難しい
正直に申し上げると、初摺と後摺の判別は専門的な領域です。比較対象を見たことがなければ、線の鋭さといっても基準がありません。同じ図柄を並べてはじめてわかる差だからです。したがって、自分で結論を出そうとしないでください。写真を撮って専門の業者へ送り、判断を仰ぐのが確実な方法になります。判別を誤って「後摺だから」と処分してしまうほうが、はるかに大きな損失を招きます。
インターネットで似た図柄を探して比べる方も見えますが、画面上の画像では線の鋭さまでは判断できません。撮影条件や画面の設定によって、いくらでも印象が変わってしまうからです。実物を手に取れる人に見てもらう。この分野ではそれ以外に確かな方法がないと考えてください。
復刻版という存在
明治以降、あるいは近現代になってから、当時の版本を復刻したものが数多く作られてきました。研究や普及を目的とした真面目な出版であり、偽物という意味ではありません。ただし、江戸期に摺られたものとは評価の水準がまったく違います。紙質、綴じ方、刊記の記載といった点から専門家は区別しますが、所有者には見分けがつかないのが普通です。復刻版であっても資料的な需要は残りますので、まとめて相談してみてください。
復刻の時期にも幅があります。明治や大正に作られた復刻は、それ自体がすでに百年前後を経ており、古書としての扱いを受ける場合があります。昨今の印刷技術による複製とは、また違う位置づけになるわけです。「復刻と書いてあるから捨てよう」という判断は、ここでも早すぎます。
北斎漫画と揃いの価値
北斎の版本のなかで、最もよく目にするものについても触れておきます。
編ごとに分かれている
北斎漫画は、絵手本として複数の編にわたって刊行された作品です。全体でかなりの冊数にのぼり、一冊だけが単独で伝わっている場合もあれば、複数編がまとまって残っている場合もあります。市場では、揃っていることそのものが評価の対象になります。バラバラの一冊と、複数編が揃った状態とでは、単純な冊数の足し算にならないと考えてください。
蔵や書棚から出てくるときは、まとめて紐で括られていることが多いものです。その紐を解いて分けてしまう前に、どういう状態でまとまっていたかを覚えておいてください。前の持ち主がどう保管していたかという情報も、来歴を推し量る材料になります。
手元にある冊数を数える
したがって、査定を依頼する前に何冊あるかを数えておくと話が早く進みます。表紙に編を示す文字が入っている場合もありますが、読めなくて構いません。冊数と、表紙・見返し・本文数ページの写真があれば、事前相談の材料としては十分です。バラして数えたり、綴じ糸を外したりする必要はまったくありません。
撮影の際は、本を無理に開かないよう気をつけてください。和綴じの本は背の部分が弱く、大きく開けば綴じ糸が切れたり、紙が裂けたりします。机の上に置いて、両手で支えながら少しずつ開く。この扱い方だけ守っていただければ十分です。関連する内容として喜多川歌麿の浮世絵本・版本はいくらで売れる?美人画の価値を解説もあります。
分売しないほうがよい理由
揃いのものを一冊ずつ別々に手放すのは、避けたほうがよい選択です。揃いという状態は一度崩すと元に戻りませんし、その分だけ評価も下がります。「まず一冊だけ試しに売ってみる」という発想は、他の骨董では通用しても、揃いが意味を持つ分野では不利に働きます。全冊まとめて見てもらってください。
同じ理由から、家族や親族のあいだで分けて相続するという話が出た場合も、いったん立ち止まって相談することをおすすめします。分けたあとで揃いだったと判明しても、後から集め直すのは容易ではありません。金銭に換えてから分けるという選択肢もあることを、選択肢のひとつとして知っておいてください。関連する論点を、だるま3マガジンの葛飾北斎の浮世絵を高額査定へ導く全知識|買取相場・真贋の見分け方・価値の判断基準でも扱っています。
他の浮世絵も一緒に
蔵書に北斎の版本があるなら、他の絵師の版本や一枚物の錦絵、和本、拓本なども同じ場所から出てくることが多いものです。持ち主が同じ関心で集めていたからです。ジャンルごとに分けず、一箇所に集めて一度に見てもらうほうが、全体像を踏まえた評価につながります。
収集の傾向が見えると、査定士は探すべきものの見当をつけられます。この持ち主は絵に関心があった、この分野を集めていた。そうした読みが働けば、見落としが減ります。一括で見てもらうことの利点は、単に手間が省けるという話にとどまりません。より踏み込んだ内容は、だるま3マガジンの葛飾北斎の別号「葛飾戴斗」の浮世絵は貴重?真贋の見分け方と買取価格への影響を詳しく解説が参考になるはずです。
手放すまでの手順
最後に、実際に動く順番を整理しておきます。この通りに進めれば迷いません。
第一段階:集める
北斎の版本らしきものを含め、和綴じの本、一枚物の絵、掛軸、和本を一箇所に集めます。この時点では選り分けません。傷んでいるもの、表紙が取れているものも含めてください。
第二段階:数えて撮る
冊数を数え、それぞれの表紙と本文数ページを撮影します。文字が読めなくても構いません。斜めから自然光を当てると、和紙の質感と摺りの線が写りやすくなります。全体を並べた写真も一枚あると、点数の見当がついて話が早くなります。
第三段階:専門の業者へ相談する
浮世絵や和本の買取実績を公開している店を選び、写真を添えて相談します。総合リサイクル店やチェーン系の古本屋では、この分野の価値を読み取ることは期待しにくいのが実情です。査定は多くの場合無料ですし、点数が多ければ出張査定という選択肢もあります。
第四段階:結果を聞いてから決める
評価を聞いたうえで、手放すか残すかを決めれば十分です。相談したからといって、その場で売らなければならないわけではありません。複数の店に見てもらい、比べてから決める方もいます。急ぐ理由がないなら、それも妥当な進め方でしょう。
この四段階のうち、最も重要なのは第一段階です。集める前に選り分けてしまうと、そこで結果がほぼ決まってしまいます。傷んだ薄い一冊が、蔵の中で最も評価される品だったということが、この分野では現実に起こるからです。
相続や譲渡所得が関係する場合、税務の判断は税理士等の専門家にお任せください。